メモ:スイッチ!~「変われない」を変える方法

ヒトの行動が変わる仕組みについて説明した本。

「感情」と「理性」、あるいは「旧皮質」「新皮質」、などといわれるものを、
を、本書では「象」と「象使い」に例えている。

行動が変わる仕組みは、以下の3点から成り立っている。

  1. 象使いの目的地を明確にする
    (象使いが象に負けているのではなく、 象使いが迷っていることが実は少なくない。)
  2. 象をやる気にさせる
    (感情が燃え上がらなければ前に進まない。)
  3. 環境を用意する
    (象と象使いが苦労しない道をつくる。あるいは、ついついそちらに進んでしまうよう仕向ける。)

この3点について、より具体的なテクニックを、事例を交えて説明している。
「より良く生きる」ことについて、示唆を与えてくれる一冊。

ブライトスポット

ブライトスポットとは、「お手本となる成功例」。例外。特異点。
全体的に見ると大きな問題を抱えているが、一箇所でもブライトスポットがあれば、それを広げることが効果的(なことが多い)。

象使いの習性として、「問題が大きければ大きいほど、問題に着目して解決策が見えなくなってしまう」なぜかというと、「問題と同じ大きさの解決策を探す傾向にある」から。複雑で累積的な問題には、困難かつ長期的なソリューションを考案したがるようにできているのが象使い。

アナリシス・パラリシスに陥ってしまう。失敗に注目するのではなく、成功に着目し、それを広めるようにしむける。

スタートとゴールを与える

スタートとは、進みだすべき第一歩目のこと。具体的な今日行うべきアクション。

象使いは案外疲れやすい。選択肢が多いほど、行動できなくなる。なぜなら、疲れきってしまうから。
人々にアクションを起こしてもらうには、明確で具体的な行動を示さなければならない。選択肢が明確だと思ってはいけない。

例えば、サービス設計において、キャンペーンの得るべき特典はひとつに。次にとるべきアクションもひとつに絞る。

ゴールとは、「近い将来に実現できる、鮮明な未来像」である。本書内では「目的地の絵はがき」という。
象も象使いもやる気になる、エモーショナル に訴えることである。

より長期的で、大きな組織であれば、数字よりも「白か黒か」はっきりした目標であることが好ましい。数字は定量的なようで、まだその解釈に裁量の余地があるから(未達成だがこの環境下でここまでやれたのはすばらしい、など)。白黒の目標とは、「二度と●●しない」

スタートとゴールで大切なことは、両方がつながっていること。長期的な目標と短期的な行動を結びつけること。

象にやる気を与える1:見て、感じて、変化する

動力源である象の感情を芽生えさせることで、前進するパワーが生まれる。
感情を動かすビジュアルを目の当たりにすることだ。

「分析し、考えて、変化する」プロセスは「変数が既知であり、想定条件が少なく、将来が不透明でない」場合にうまくいく。運用業務の最適化などだ。
「見て、感じて、変化する」変革が成功した例はこの順序でおこる。象を動かすにはこのプロセスをもって感情レベルでゆさぶる。
惰性、無気力に対して分析的な主張がきかないのはこのためだ。

頭で考え理解しても行動が変化しないのは、ときに自分の考えすら信頼できないことによる。自己評価には「解釈」が含まれ、変化の必要を否定する楽観的解釈の傾向がある。この信念を「肯定的幻想」という。

このような意味から、「成功事例を見せろ」という話は納得がいく。実際に目に見えるものは信じることができ、人は心を動かされるからだ。
とはいっても、「まだ事例なんかない今がチャンスなんだよ」ということも少なくない。このような場合には、「ど真ん中ではないが、異分野での事例」「成功との因果までは証明されていないが、その手前にある胸躍る何か」をビジュアルとして提供する。そこにはプレゼンターの創意工夫が必要となる。

象にやる気を与える2:変化を細かくする

ハードルを下げる。たとえば、スタートダッシュを与える(2つハンコが押されたスタンプカード)。5分間だけ掃除する。

尺度をもつ。
ダイエットのように定量的なものを除くと、尺度で計りにくい。その場合は自分でスケールを作ってしまう。主観的でかまわない。1〜10で評価し、いま何点?と問う。「2点」と答えるならば、「もう2割の地点まできているじゃない!」と相対化&励ますことができる。それを3にするには、どのような行動をするのか?を明確にすれば、変化を細かくして前進することができる。

象は長旅を示されると頑として動かないが、ミクロなマイルストーンは楽々と乗り越える。そして象自身が自信をつけて成長していく。

象にやる気を与える3:マインドセットをもつ

アイデンティティを育てる。
アイデンティティは、経済的利益によって人が動かない場合でも、動くきっかけを与える力がある。たとえば自然保護活動など。
そのためにはまず、小さな行動でアイデンティティに作用してから、徐々に大きな行動へ飛躍させる。

しなやかマインドセットをもち、学習姿勢を取り入れる。
「こちこちマインドセット」は、自分という人間は決まっており固定的であり変化できないという考え方。「しなやかマインドセット」は努力次第でいくらでも成長できるという考え方。しなやかマインドセットをもつには、短時間の研修でも効果がある。
最初からうまくいくと考えずに、「失敗も苦労もあるだろうけれど学習しながら徐々にゴールに近づこう」という考え方のほうが成功確率が高い。

道を整える

本書内では「道筋を定める」と書かれている。象と象使いが進みやすいように、環境を整えてやる、という意味。

人がある行動をとるのは、その人の性格の問題ととらえることが多い。だが実際には環境がそうさせていることが少なくない。この誤認を「根本的な貴族の誤り」という。環境次第で、同じひとでもまるでとる行動を変えることができる。

環境を変える。
そうせざるを得ない状況を作る。ちょっとした物の配置でも変わる。
自分自身の行動を変えるには、セルフコントロールを課すよりも、環境を変えることのほうがずっとうまくいく。

習慣を生み出す。
環境に頼れない場合には心理的に習慣を生み出す必要がある。
「アクション・トリガー」は、「○○に行ったら、○○する」のように、ある環境の引き金に直面したときに、行動を実行しようと決意すること。
また、より具体的にアクションする時間、場所をイメージするだけで実行率が向上する。
アクション・トリガーは、「意思決定の事前装填」であり、考えなくて済む(考える余地をなくす)ことでアクションを確実にするものである。

集団の力を利用する。
集団圧力のパワーで人の行動は変わる。まわりと同じ行動を自然ととってしまう。「ほかの大勢は、このような行動をとっています」と望ましい行動を認識させるだけで、行動を変えられる場合もある。

「フリー・スペース」変化を起こす意欲がある人が十分に意見交換をする場のこと。そして変化の準備を進められる環境のこと。

どう活かすか

この本の内容をどのように活かすか。自分はとくに、「見て、感じて、変化する」形で周囲をエモーショナルに動かすようなところがこれまで抜けていたと思う。象をやる気にさせられる人間になりたい。