3月17日(土)、
SwapSkills doubbble vol.03 「ゲームニクス/ゲーミフィケーション」に参加してきました。
いつもゲームニクス系のイベントを逃してきたのですが、キーマン4人が一気に出揃うチャンス!
概要
会場には多くの人がつめかけていて、どうやらWeb制作関係者が多い様子。レベル感としては「ゲームニクス、ゲーミフィケーションについてもこれまで触れたことがない」人が多かった様子ですし、イベントも入門者むけの構成でした。
当日の流れは、サイトウアキヒロさん、井上明人さんがそれぞれゲームニクス、ゲーミフィケーションの概略を解説。
そのあとに久保田さん、櫻井さんから「Webでやると何がいいの?」「実際やってみた事例」が紹介されました。
これまでのゲームニクスとのかかわり
ゲームニクスについては以前大変感銘をうけ、はたしてどうゲームニクスを反映したサービスデザインをするのか?について各社のUXデザイナーで集まり、検討したことがありました。ゲーミフィケーションも同様。
どちらも、「はて?提唱されている各種の手法を、サービスシナリオの一つ一つにすべて検討するのだろうか?・・・そんなわけない、なにかやり方があるはずだ」ということで、定常的な実施には至らなかったのでした。
別のいいかたをすると、既存のなにかをゲームニクス/ゲーミフィケーション観点から解釈することはできる。でも我々の仕事はそれをリバースエンジニアリングして結果を出すことで、その手がかりが見つからないなあという課題認識です。
当日の様子と気づき
サイトウアキヒロさんによるゲームニクスのお話からスタート。
ゲーム小史的な内容から入ったのは自分としては楽しめました。1976年生まれとしてはムネトキメクかんじ!
ゲームニクスの内容で、インタラクションデザインのノウハウみたいなものは、書籍、特に「ニンテンドーDSが売れる理由―ゲームニクスでインターフェースが変わる」のほうにまとまって紹介されています。この本、もう中古しかないようなので、興味のある方は見つけ次第入手しておきましょう(もう一冊、「ゲームニクスとは何か―日本発、世界基準のものづくり法則」もありますが、こちらはどちらかというと概略で具体的な踏み込み度合いは浅いかと思います)。
検証のきめ細やかさがハンパない
私の気づきは、「ユーザーテストの内容自体は普通」、でも「品質基準が設定できている」「それを厳格に運用できている」、そして外部被験者を使わないまでも「ライトな検証がきめ細やかに実施されている」ということ。そのすばらしさでした。
ゲーム業界では、いまとなっては当たり前の超短サイクルでのユーザーテスト、またオンラインゲームにおける実装段階でのA/Bテスト。でも、アタリショック後にゲーム業界を任天堂が制したのはこのような地道な検証が大きな要因だったようです。
いまもある、「スーパーマリオクラブ」という社内ゲーム審査機構。ここで80点以上とらなければ製品化されることはなく、ゲームクリエイターにとっては非常に高い関門だったようです。
スーパーマリオクラブでの被験者(テスター、モニター)は広告による求人で常時リクルーティングされており、現在も続けられています。流動的でつねに入れ替わっているようです。初心者からマニアまで、若者から老人まで。
また、被験者が外部のユーザーでなくとも、テストは開発をすすめるたびに頻繁に行なっていた例もあったようです。作っては社内のどこかからスタッフ(そのゲームにさわったことがない人)をひっぱってきてはやらせてみる。自分の思惑通りにやってくれるか試す。そのフィードバックをうけて、修正する。を繰り返す。
ちなみにこのときのテストでは、絶対に話しかけてはいけない、後ろからみるだけ「肩越しの視線」が重要、というお話でした。
自分の職場では、画面を他部署のスタッフにみせて「あーだこーだ」とやることは多いのですが、ストーリーボード等で検証することがないですね。またはペーパープロトとかオズの魔法使いとか。
そういうちょっとしたことがないので、ペラっとしたIA的ツッコミが入りはしますが、インタラクションとして成立するかどうかを日常的に検証できていないかなーと思いました。
今回サイトウアキヒロさんに紹介いただいたことも、知識としては誰もが知っているのにやらない。ほんと、ちょっとした差だと。
インタラクション・デザインが生み出す価値
任天堂の宮本茂氏が「なぜこれほど売れたと思うか」と聞かれたときに、「インタラクション自体の心地よさ、毎日さわりたくなるような」と答えたそうです(具体的には忘れてしまいましたが、大意はこんなお話でした)。
自分はこれを聞いて、ハッとしました。天地がひっくり返ったような。
なぜかというと、「本質的な価値」、Goal Directed Designでいう「ライフゴール」のようなもの、そことつながりながら、理想的な生活内でのアクティビティシナリオをリデザインし、さらにそれをテクノロジーとぶつけてインタラクションをデザインする。インタラクションは、本質ではなく、「味付け」であったり、「価値を引き立てるもの」のように考えていたふしが自分のなかであった、と思ったからです。
でも、「インタラクションの質そのものがとてつもく価値をもつ」ということも、ゲームに限らず、世の中にはたくさんあります。
あまりロジカルな価値規定に当てはめすぎるのはよくないな。と思いました。
言語化できなくたって、いいじゃないか、と。
どちらが主として認知されるのか?はプロダクトの性質や経過時間によって異なりますが、 これは自分のなかで新たな地平が開けた感じがしましたし、我々UXDで最も重要な「継続的利用意欲の醸成」がグッと近くなったと思いました。
(ほかにもたくさんのお話をいただいたのですが、来場者に一番ウケていたデザイン事例、原則の話は、サイトウアキヒロさんの書籍その他でたくさん紹介されておりますので、省略。)
次は、井上 明人さん。
そう、この本を書かれた方です。注目の的。
ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変えるがビジネスを変える
今回は、かなり本の内容に忠実なお話をいただきました。
・・・ということで、講演内容を知りたい人は、本を読むのがよいかと思いますので、質問時にお伺いした話を紹介します。
ゲーミフィケーションはJust Do It.だった
「サービス設計でどのようにゲーミフィケーションを適用すべきか?身につけるべき知識、よい手順はあるのか?」という質問をしたところ、
「その質問が間違っている。 サービスデザインのノウハウ集ではない。ユーザーがどのように振舞って欲しいのかを設計すること。これがゲーミフィケーションで何より大事なこと。そこから先、ユーザーの振る舞いを好ましいものに近づけるために、紹介されている各種手法がどれが適用できるのか?を検討し、検証する。検証プロセスはアジャイル開発。」というお話をいただきました。そのときは結構酔っ払ってましたので、まちがっていたらすみません。大意はこんな内容だったはず!
自分としては気づきがあったと同時に、ショックでもありまして、冒頭でのべた「シナリオデザイン時に、オライリーのゲーミフィケーション本にあるテクニックのどれが使えるのか?を一つ一つ検討するとか、まさかそんなことやってないんだよね?」という、「まさか」がズバリだったわけです。
このあたり、「ばかじゃねーの」とバカにされる、あまりにも甘い期待だった。のかもしれないですが、自分としてはあがきたいんですねw。
だってたいていの会社に、ゲームデザイナーがいれば土地勘があってサクサクいくかもしれませんが、そうはいきません。どう考えても精度が高いモノヅクリができる感触がないです。
ということで、ゲームデザイン感を養う方法がないかとか、今後のイベントでゲームデザイナーの方にコンテンツデザインに活かせることを語ってもらうとか、引き続き悪あがきはしたいと思っていますw。
次が、NHK出版の久保田さん。
商売勘定をベースにゲーミフィケーションをとらえられているので、また元ウェブディレクターというのもあり、リアリティがありました。
プロジェクトの性質にあわせてゲーミファイする
久保田さんのお話のなかでは、「プロジェクトがうまくいけば、ゲームのクオリティ的にバカにされても、それは成功」という割り切りみたいなものが見えました。これは腹落ちするものでした。
例えば、「ゲーミフィケーションていうけど、たったその程度のこと?」でも数字は結構伸びたよ、という事例。もちろん、もっとコストをかけてゲーム化し、もっと多くの人をグリップできれば、数字は上がったかもしれません。ただ、限られた予算のなかでゲーミファイし、求められる成果を出したのだから、これは成功なのだと。
「アクセスログ解析ツール」並の手軽さでユーザー行動のPDCAサイクルを実現
また、ゲーミフィケーションプラットフォームについては、このキモは「バッジ等のゲーム化体験をサイトに提供すること」ではなく、「UU単位で狙ったインタラクションのコンバージョンについてPDCAをまわす『チューニング』がとてつもなく容易になる」ということでした。
これは納得度が高かったです。サーバーログから育ってきた現在のアクセスログは、あくまでも「ページ単位、セッション単位」の分析が中心。本来は「(アクティビティ)シナリオ単位、ユーザー単位」であるべきです。これに近いプロダクトは米国中心に出てきていますが、エンタープライズ向けにコストがあうものはまだ目立ってないのが現状です。もしそんなものがあれば、PDCAサイクルは10倍ぐらいのスピードで回ってしまいます。
しかも、ゲーミフィケーションプラットフォームは「シナリオ単位、ユーザー単位」の分析ができるだけではなく、インタラクションの変更が管理画面上から、その場でできてしまうわけです。全部が全部とはいいませんが、ある程度の「サイト運営」「広告」予算が、ゲーミフィケーションプラットフォームに割かれる時代がくるのは間違いないと思います。
ゲーミフィケーションプラットフォーム提供企業は、「Facebookがまだ握っていないWeb」、すなわち「OpenWeb側」の「プラットフォームになろうとしている」のであって、事実そのように市場がついてきているからこそ、巨額の投資マネーが彼らのところに流れ込んできている。ということです。
ゲーミフィケーションの本質とは
久保田さんの危惧は、「多くの人がゲーミフィケーションを完全に捉え間違っている」ということです。それは、「サイトの作り方にゲーム要素を取り入れること」「それによりユーザーをグリップすることができること」だと思われてしまっている、とうこと。違う!そうではない!そのことをわかってもらうために、考えをまとめて発信したいのだけれど、なかなかその時間がなく・・・という状態なのだそうです(笑)。
ゲーミフィケーションの本質は、いかに「ユーザー単位」「シナリオ単位」でチューニングしやすいか、ということです。ユーザー単位でコホート分析できる環境を整えるのは、コストがかかることです。仮にユーザー単位で分析できる環境があったとしても、それをサイトに反映させるのはまた大変なことです。これが一撃でできてしまうプラットフォームが誕生してしまったのです。
これができている企業は?ウェブの世界では、ソーシャルゲームの業界です。有名な話ですので詳しくは述べませんが、例えばGREEの分析環境と、各業界からアナリストを何十人も吸収している状況があります。
では、GREEと同じことをウチもやろう!となってできるのか?というと、意外と(もちろん)一筋縄ではいきません。たとえ一箇所でも、「ここのセグメントごとのDAU推移をとれるようにしたい」といった途端に処理能力の限界に突き当たったりします。
できるところは、自分たちで環境を創り上げるべき。できなければ、プラットフォームにのるべき。
「プラットフォームになるか、プラットフォームにのるか」どちらかの選択をいままさに迫られている(もう何度も経験してきましたね~これ^ ^;)、ということです。
最後は、Metamosphere Inc.の櫻井さん。
mixiでのナショナルクライアントとの取り組み事例を中心に蔵出し!的な紹介をしていただきました。
もうほんとうにリッチなコンテンツで、憧れの領域。なんとかあれくらいスケールした仕事で結果を出してみたいものです。
ああいうものを作りたいときは、こういう人に頼めばよいのか、と(笑)。
以上、自分にとって収穫のあったイベントとなりました。
「ゲーミフィケーション」に対する嫌悪感が消えた
あまりゲーミフィケーションについて知見のある人に直接コンタクトしてこなかったので、海外の書籍、ウェブサイト、等から仕入れていました。
特にゲーミフィケーションを中心に扱う国内ウェブサイトは、「これもゲーミフィケーション、あれもゲーミフィケーション」と、「成功しているプロジェクトをゲーミフィケーションというメガネで後付解釈する」ということをやりまくっているだけに見えます。
「じゃあこれから作るときに狙って当てるためには具体的にはどうやるんだ」ということを血を流して開拓し、発信するひとなんていないんだ。
「情報伝達屋」「解釈屋」ばかりが表舞台にたっていて、「あーはいはい、ゲーミフィケーションとかいってる残念な人たち、いるよね」とこれまでは思っていました(←自分の色眼鏡相当ひどい(^^;)。
でもここ最近、井上さんや深田さんの書籍が出てきて、さらに今回、お話をして「至極真っ当な」姿が見えて、「ゲーミフィケーション」はとてつもなく大きな可能性の光へと、自分の中で形を変えました。180度変わりました、ほんと。
関係者の皆様、誠にありがとうございました。
本題とは直接関係ないのですが、気づきの一つとして、「ソーシャルゲーム」になぜハマるのか?は、社会心理学でいう「ソーシャルリアリティ」でもある程度説明ができるし、応用がきくのではないかと思いました。これはこれで長くなるので、心理学得意な人におうかがいしながら飲んだりしてみようかなと思います。
コメントを投稿するにはログインが必要です。