サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」を読みました。

少し小難しく感じる部分があるものの、ビジネス書にしてはテンポよくエキサイティングな読後感が得られました。
何が小難しいかというと、まず著者の肩書(フィナンシャル・タイムズ アメリカ版編集長 ジリアン テット)、そして人類学の発展経緯から語り始める時点で「ああ、回りくどい、過剰なストーリーテリング、海外モノあるあるだわー」と構えてしまいました。ですが、展開する各ストーリーが後に向けてつながっており、その構成が理解しやすい。きちんと編集された書籍だと感じました。

内容は、組織が巨大化するにつれ、専門化した部署に分化していきます。その際に、人々が”タコツボ化”することの弊害(所属組織に閉じこもり機会を逸失したり、リスクを見逃して巨額の損失を被ったりする=サイロ・エフェクト)。またそれを防ぎ、乗り越える努力について紹介されています。

ありがちなテーマでありながら、この本が素晴らしいのは、人類学的視点(インサイダー兼アウトサイダー)から切り取っていること。特に「人々は物事をどのように分類するのか、なぜそうするのか」。が一貫した地図として読者に手渡され、それを参照しながら幾つかのケースから学べるというところ。

最終的にサイロを打破する特効薬はまだ見つかっていないという結論でありながらも、人類の未来に希望をもたせてくれる内容であります。

サイロ・エフェクトによるクラッシュ例としてソニー、UBS、経済学者コミュニティが取り上げられていきます。衝撃的だったのがソニーの酷さ。そしてこれがソニーだけでないという。なんということでしょう。

克服する努力をしている例として、フェイスブックが挙げられています。社内で部門間の人の異動及び交流を促進する仕組みをインストールしておくことで、サイロ化を防ごうというものです。これには多大なコストが伴うものの、サイロによる悪影響に比べたらよほど良い、と評価して進んでいるようです。コストとは、交流行事に多くの時間が割かれたり、また人が急にチームを移るために、状況によっては人員不足でプロジェクトが進まなくなってしまうことが起こる、など。

フェイスブックの例は社内の人を動かし続けることにより、特定のサイロに人が固着することを防ぐもの。これは内部的なことが主眼となり話が展開されています。
一方で、サイロを外部環境に合わせるというアプローチで克服しようとするのが、顧客価値に合わせて組織改編をしたクリーブランド・クリニック、そして他社のサイロを逆手に取ること自体を戦略として成長したブルーマウンテン、の二社です。

この二社の例こそが、「分類」「無意識」「本当に重要なのは語られていないこと」という、冒頭で人類学的アプローチにより語られてきたことの集大成であるし、興味深かったです。
この例で思い出したのは、近年話題になったサービス・デザインというサイロを超えて協業し、より市場にフィットしたプロダクトを提供するサイクルを作る方法。そしてドラッカーの「イノベーション」の話。自分がコントロールできて可能性が高い方法は、顧客視点に立つ事。考え方、テクニックはつながりがあると思うので、サイロと付き合うための引き出しとして持っておいて良さそう。

メモ

「何かを大きく変える必要はなかった。ただデータを取りまとめ、知恵を絞って考えただけだ。」マイク・フラワーズ

電気を手放したらライフスタイルを維持できないのと同じように、サイロを完全に放棄することはできない。

報酬制度は重要。報酬がが自分が所属するグループの業績だけに基づいて決まり、グループ同士が競争関係にあると他に何をしても無駄。

文化の翻訳家。サイロ間を行き来し、外で何が起こっているかを知らせる。

フェイスブックでは、フェイスブックというプラットフォームそれ自体が、社員同士が立場を超えて絆を深める手段となることに気づいた。自分の考えやメッセージ、プライベートな話題を共有するように呼びかけた。
・・・例)特にはプライベートを語るのを不安に思うこともあった。だが時間が経つにつれて人間関係を広げるのに役立つのはプライベートな話題であることに気づいた。