Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン 書評

年明けに監訳者であるConcentの坂田さんより、書籍「Lean UX ―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン (THE LEAN SERIES)」を頂戴しました。

さらに昨日はこの本に関するイベントを開催し、自分もスピーカーとして参加しました。
このあたりについては、坂田さんのブログで取り上げていただいているので、ご参照ください。

いただいたにもかかわらず、今になってしまって恐縮なのですが書評します。

UXデザインのアウトカム(成果物)とは何か?

何年か前に、「UXのアウトカムは何?」ということが海外デザイナーのブログ等で話題になっていたことがありました。
当時の自分には即座に理解できませんでした。彼らが言う「アウトカム」とは、プロダクトやビジネス目標ではなく、「デザインの途中経過を表すもの」のようだったからです。例えば、ペルソナシナリオだとかジャーニーマップじゃない?といった調子です。

しばらくしてわかったことは、彼らにとってUXとは主に「ユーザーリサーチ」や「ユーザビリティ評価」といったタスクをさしていました。また別の人は、「定量・定性データではない、質的な情報分析から得られる何か」を指してるようでした。
彼らはデザインファームなどでコンサルティングを行う人で、「UX 00万円」のようにお金に換える必要がありました。
このような状況下、「UXのアウトプットは何?」という思考に至るのは理解できます。

もし上記のような内容に悩む人がいたら、
「Lean UXを読んでね」
といいたいです。
アウトカムは、プロダクトしかないはずです(正しくはプロダクトが生み出す「価値」)。

この本の著者も、同様の悩みから出発して、Lean UXという考え方と実践に至っています(と受け取りました。本書で取り上げられている過去のエピソードから推測するに。実際どうなのでしょうw)。
彼らはデザインのスペシャリストとして、自分たちの領域のタスクを完了すればよい。それは次の工程にわたす膨大な調査結果と仕様書だったのです。
でもそのやり方でプロジェクトが効果的に価値を生み出すことはなかったのです。

どんな人が読むといい?

  • Lean Startupをまだ読んでいない
  • Agileに疎い
  • デザイナーあるいはデザインプロセスに責任を持つ立場
  • HCD(UCD)をある程度実践している
  • デザインファーム、コンサルティングファームの立場
  • 比較的大きなプロジェクト(の中のチーム)で仕事をすることが多い

人ではないかと思います。
なぜかというと、本書内で語るプロジェクトあるいは会社のカルチャーが大手よりなものを想定しているようです。
ちなみに小規模組織、スタートアップよりの即したUXデザインについての本は、同シリーズの「UX for Lean Startups」がありますので、そこと住み分けて、Startupだけじゃない、より上位概念を念頭におきつつ、組織の性質もずらしているようにも感じます。

どう読むといい?

Leanなデザインプロセスの概略というか、雰囲気、哲学みたいなものをおさえておきたい、知っておきたいという人にちょうどよいと思います。特にLean StartupやAgileを実践したことがない人にとっては、得る物があるのではないでしょうか。

一方で「Leanなデザインプロセスを実践するための手引きとして」という読み方は厳しいのではないかと思います。実践したい場合にはそのような書籍の登場を待つか、ワークショップ等の場への参加がよいと思います。やはりオススメはジャニス・フレイザーによるワークショップです。今月も来日していたように思います。

「Leanなんちゃら」

Leanなんたら、Leanうんたら、とかいうのが増えてきた昨今、自分の「Leanなんちゃら」に対する考え方を今一度整理すると、「むだなリソースを使わない」ということです。リソースさえあればプロジェクト成功の可能性は残るからです。そのための条件をが以下の2つです。

売れるとわかってから作りはじめる
スタートアップにとって、最大のリソース投下は市場投入可能な品質のプロダクトを作り上げるコストです。そこで、MVPによる実験でPMFを目指します。

壁を壊す
ユーザー=お客さんではありません。ステークホルダー=関係者ではありません。Leanの考え方では、ユーザー、チーム、ステークホルダー、すべてをPMFのためのリソースとして使い尽くします。ユーザー、チーム全員、ステークホルダーすべてが共に気づき、学ぶのです。実際のアクションとしてはこれら三者がなるべく同じ時空で学びを共にすることです。
ユーザーとの壁を壊します。ユーザーとはもっと近くていい。
職種やチームの壁を壊します。エンジニアの仕事はスペックの実現ではなくユーザー価値のための、エンジニアリング視点での価値提案です。

LeanとかUXとかの実践パッケージがほしい
Agileという「考え方」の実践パッケージとしてScrumがあるように、UXなんちゃらにはソリッドなパッケージがありません。これからはじめる人の敷居を低くするものがあるほうがよいと思います。もちろんパッケージ化するとそのやり方が適合する/しないという問題が出てくるわけですし、場合によってはとらわれて本質を見失うこともあるわけですが、広がりがにぶい、まともな成功事例も出にくいというのはそのような歴史の浅さに起因するところは大きいなと思っており、この分野の課題だなと思っています。
本書も推進力となって実践体系が整備され、広まっていくことを期待しています。

Lean UXが指すもの

ジャニス・フレイザーが提唱するLean UXは、「UCD(HCD)デザイナーが培ったテクニックをスタートアップに適用する場合には、このようにすればよい。私たちUCDデザイナーは多くの武器を持っているが、これだけに削ぎ落として、そしてこういう使い方をしましょう。」というものでした。HCDから入った自分にとっては特に、明快で腑に落ちるものでした。

本書で扱われるLean UXはどちらかというとCultureをメインに志向していると思います。これもまた、自分の体にしみ込ませたいものであり、多くの人に知ってほしいことでもあります。

本書のタイトルなのですが、デザイン視点ですのでLean UXでももちろん、よいのかと思いますが、私としては本書のタイトルは「Lean Designing Culture」「Lean Principle」のように、Leanシリーズの中では少しメタな立ち位置として編集されてもよかったのではないかと思います(かと思えば、極めて詳細なテクニックにも話が及んだりするので悩ましいのですが)。

村越さんによる書評
私よりよほどきちんと書いておられます(汗)。