「楽天レシピは投稿者に報酬を与えるからクックパッドに勝てない」話について

知人が
「楽天レシピの場合、投稿にインセンティブを与えるから、かえってやる気を失ってしまって、クックパッドのように投稿が伸びないという記事を見まして、確かにそうだ!と思いました!」
と言っていました。

それに対して違和感を覚えつつ、自分でもうまく整理できていなかったので、まとめておこうと思います。

その記事とは

元ネタは、NHK出版の久保田さんのブログ投稿。

楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?

「NAVERまとめ」研究

久保田さんの狙いとしては、もちろん「ゲーミフィケーション」理論を普及させるために、そのセオリーで説明できる箇所にできるだけapplyしてみる、というポジション。よって、上記の記事で言われている「ソーヤー効果」ですべてを説明できるんです!とは彼は一言も言っていません。

ですが、楽天レシピの旗色が悪くなるや否や、絶妙のタイミングでのこの記事の登場ですから。記事を読んだ人の多数が「やっぱそーでしょポイントあげちゃダメっしょ」的な空気になっているように見受けられていて(各種ブクマやTweetまとめから推察するに)、「おいちょっとまて」と。そういう可能性も結構あるけど、彼が言いたいこと(あるいは受けてとしての受け取り方)はそうじゃないのではないですか、と思いました。

 

「内発的動機づけ」が二元論で捉えられてしまう

ここで話題になっているのは、デシらの研究を中心に発展してきた「内発的動機付け」に関する各種研究結果から導かれる理論どおりに、「クックパッド」「楽天レシピ」におけるユーザー行動が発生しているのではないか?ということです(と思われます)。

「内発的動機付け」とは。

  • 「有能感」と「自己決定感(自分の行動は自分で決めている!という感覚)」が個人行動の動機づけになる
  • これらの感覚をもち行動している人は、さらなる「有能感」「自己決定感」を求め、行動をつづける
  • =動機付けの要因が内部にある
  • 外部からの要因がこれらを阻害することがある
  • 外部要因はたとえば「報酬」(外発的動機付け)。「自分がやりたいからやる」→「お金のためにやる」に変わってしまい、つまらなくなる。お金をもらわない限りやりたくなくなることも。あるいは、創造性が失われることもあるかもしれない。

「これまでは嬉々として行っていたことが、報酬をもらいだすと、途端にお金をもらうために最低限のことしかしなくなる、金が途切れるとやらなくなってしまう」ということがある、ということです。

これにはすぐに反論あるでしょう。今回は楽天レシピのようなCGM。CGMといえば利用者が投稿する(著作、編集などの行為を行う)のが一般的です。
だとすれば、「著作や編集に対して、報酬を与えるのって一般的だよね?」小説家やアーティスト、新聞記者や雑誌の編集者。 高いクリエイティビティを発揮し時代を牽引していますが、報酬が彼らのやる気をなくしたというのは(ありそうですが)あまり聞きません。

もちろんこれも説明されていて、「報酬が、有能感や自己決定感を阻害しない、あるいは高める因子として正の相関を持つ」こともいっぱいあるよね。ということです。

結局、「報酬あげたらやる気なくす」は必ずしもそうではなくて、「あげ方による」ということです。
例えば、子供の遊びのように「お金をもらわなくても困ることはない」立場の人であれば、内発的動機づけが阻害されてしまうこともあるでしょう。
一方で、「どうせなら儲かればいいな」ということがらに対して報酬が与えられれば、そちらを選ぶこともあるでしょう。

 

動機付け理論はたくさんの種類があります

ひとつの側面からではなく、様々な可能性についてぐるっと考えをめぐらせたほうがいいと思います。

動機付けについては「内発的動機付け」で説明する理論のほかにも、様々なセオリーが提唱されており、また行動経済学その他で実用レベルに近い形の行動科学として提供されているものもあります。「動機付け理論」なんかでググるだけでもいろいろ出てきます。

二元論的な決めつけをしてしまうのは、自ら発想の可能性を狭めてしまい、もったいないと思います。

 

人がそれを使い続けるかどうか、の因子は多数存在します

ちゃんと「クックパッド」と「楽天レシピ」を使ってみた人はわかるでしょうが、「楽天レシピ」はピュアなレシピサービスではありません。あくまで楽天infoseekのサービスであり、入会時点で「広告メール送りまくるから承認しろ」というところから始まります。あとは推して知るべし。内発的インセンティブがどうとかいう以前に、根本的に何もかも違います。

おそらく、高い目標にコミットして、グループサービスとして求められる各種制約の中で、「利用者に使ってもらえるようなサービスを作りたい、でも楽天市場のための楽天レシピという位置づけの中でうまく折り合いがつけられない!」というのが楽天レシピの中の人の本音なのだと思うのです。

 

そんなわけで、いろんな意味でダメすぎるメディアというのは、伸びしろがあるということです。「あーあ、楽天レシピだめね」的に今はなっていても、大逆転のチャンスはまだまだあると思います。

私の職場でも、インセンティブつきの投稿は思ったより好調、またクオリティをさらに向上させることもほぼできることがわかってきた状況です。

やはり肝心なのはユーザーのゴール設定ときちんとしたシナリオのデザイン。ではないでしょうか。